2016/05/30
日本の災害とこれからの防災について官民の専門家が集って意見交換を行う場「これからの日本を考える懇談会」が防災をテーマに開催されています。『コンコム/防災を考える』では、懇談会において取り上げられたテーマのうち、建設技術者の業務に関わるであろう話題について内容を再編集して掲載します。
前回は、東日本大震災に於ける下水道施設の被災と緊急対応について紹介しましたが、今回は、懇談会において国土交通省 水管理国土保全局 下水道部流域管理官の加藤裕之氏が発表された「下水道施設のゲリラ豪雨対策」を再編集してお届けします。
高度経済成長期に整備が進んだ下水道は、現在一斉に改築更新の時期を迎えている。この状況に国の下水道はどのように対応していくのか、また、最近耳にすることが多くなったゲリラ豪雨の対策に下水道がどのように取り組んでいるのかをハードウェア、ソフトウェアの両面から解説する。
雨について下水道部で検討していることは、以下の3点になる。
① ハードとソフトを組み合わせた浸水対策
構造物等のハードウェアだけではなく、住民自身による自助・共助を支援する災害情報の提供等のソフトウェア対策を組み合せた浸水対策を行うことである。
② 選択と集中
全ての場所を同じ安全度で雨対策するのではなく、駅周辺の安全率を上げていくなど、時間も予算も限られているなかで選択と集中という概念を取り入れることである。
③ 受け手主体の目標設定+ストック活用
10年ほど前までは、降った雨は全て川に流すことがハード面での考え方であったが、それでは予算も時間も不足ということで、床下浸水くらいは許容範囲という人間目線で検討しようという考え方になってきた。その結果、今ある施設を最大限活用していくというストック活用の考え方が出てきた。これは道路も河川も同じ考え方で、施設の新設投資を押さえて現状ある施設を最大限活用する方向で進んでいる。
「水位主義」とは、私の造語である。河川はこれまで水位を計測してきたので、長年の記録が残っている。しかし、下水道はネットワークであるためにマンホールの中の水位を計測する習慣がなかった。そのために河川との一体的な事業をしようとしても対話ができない。そのため現在は下水道の水位を計測していく方向になっている。
図1は、東京都豊島区雑司ガ谷の局地的な大雨の例で、図中赤く示されている部分が大雨だが、少し離れると雨は止んでいるという局地性が高いことが特徴で、約1km2(100ha)に降雨が集中している。これをみると全体の対策をとるのではなく、集中している箇所の雨水を、降っていない箇所にもっていくという対策が考えられる。
また、下水道は数km2の枝の中で降った雨が1つの太いパイプに集まる仕組みになっているため、10分間の降雨がどのくらいあるかということが大事になってくる。最近問題になっているのは、集中豪雨で下水管の空間には余裕があるが、下水管に取り込む能力が足りずに雨水が道路に溢れていくという事象である。
明治41年の東京市下水道設計は、計画時間最大降雨量31.7mm、雨水流出係数0.5であった。雨水流出係数0.5とは、降った雨の半分が地上に出ることを意味する。当時は1時間に最大約3cmの降雨、そしてその半分は地上へ出るという予想で設計されていた。これが現在は、計画時間最大降雨量75mm、雨水流出係数0.8となっており、降雨の約8割は地面にしみ込まずに地上へ出るということで、今の東京の大きな問題になっている。
国土交通省は、計画を超える降雨に対して地域の関係機関・住民等が協力して、浸水被害の軽減を図る取り組みを定めた計画を「100mm/h安心プラン」として登録し、国が重点的に支援する制度を平成25年度に創設した(平成27年度末までに17都市18箇所を登録)。下水道はしっかりと水を貯めること、河川は川幅を拡幅することなどの取り組みを共にしていこうとするものである。
佐賀県佐賀市の取り組み例では、河川の川幅を広げるとともに、住民と行政が一体となり河川の空間を確保できるように、河川・水路の清掃活動を30年以上続けている。また下水道では、整備に合わせ佐賀城のお濠に雨水を一時貯留しダムの代用とするなど、既存の施設を活用する工夫により、流域の浸水被害の軽減を図る取り組みを実施し、新規の投資を押さえている。
洪水には、内水氾濫と外水氾濫がある。内水氾濫とは、大雨により河川水位が高くなり、河川の水が下水や側溝を通じて市内へ逆流してしまい、降った雨の行き場がなくなり市内に氾濫してしまうことをいう。外水氾濫とは、大雨により河川水位が高くなり、堤防を超えて水が溢れる(溢水)、堤防が壊れる(決壊、破堤)ことによる氾濫をいう。
洪水ハザードマップは外水氾濫を想定して作成されているが、内水ハザードマップは一時的に大量の降雨が生じた場合において、下水道その他の排水施設及び河川その他の公共の水域に雨水を排水できないことにより発生する浸水被害を取り上げている。国は平成18年3月より内水ハザードマップの作成推進を行っており、平成26年度末において、318市区町村(約66%)が作成・公表し、270市区町村(約56%)で防災訓練等を実施している。※特に埼玉県では平成26年度末にすべての市町村で内水ハザードマップが作成されている。(図5)
平成26年8月16日〜17日に起こった京都府福知山市の洪水では、16日から17日の24時間の雨量が300mmを超え、平年の8月の1ヶ月雨量の2.5倍に達した。しかし福知山市ではそれまで内水ハザードマップを作成していなかった。自治体としては、「最低限どこが危険で被害が起こるか」ということを知らせるべきである。
下水道のソフト対策として、降雨情報から、何分後にどれくらいの量が下水管に流れ込んでくるのかを順次予測して、下水道のポンプ運転をコントロールするシステム「B-DASHプロジェクト」を構築している。図6は広島県広島市をモデル都市として行っているプロジェクトである。
XRAINの降雨情報を送る一方、下水管中の光ファイバーを使って下水の水位をリアルタイムで計測、その双方のデータからコンピュータが浸水予測をし、ポンブの運転支援、浸水予測をするシステムである。これは浸水危険の予測・判断の基になる。
XRAIN:国土交通省により設置されたXバンドMPレーダネットワーク。250m四方という非常に細かい雨の分布を観測することが可能であり、集中豪雨・ゲリラ豪雨もほぼリアルタイムに観測可能。
下水道と河川は、河川のストック施設活用の取り組みを始めている。河川は流域が広いので、河川の調節池はピークを迎えるまでに時間がある。しかし下水道は河川に入る前の水を貯めているので河川への排水が困難になった場合には、河川調節池に直接接続し、浸水被害の解消・軽減を図るというものである。また逆に、河川調節池がピークでも、下水道施設に余裕がある場合にはそちらに接続して、ゲリラ豪雨の対策を強化する。
大阪市で行っている下水道のストック活用の事例では、ゲリラ豪雨の雨域は非常に狭いので、計画降雨に対応した各排水域の大規模幹線間やポンプ場間のネットワーク化を行い、局地的な大雨において雨水浸水の解消・軽減を図っている。豪雨の地域と降雨のない地域の下水管をネットワークで繋いでいけば、既存の設備能力が2倍に活用できることになるが、下水管ネットワークの最適制御には、情報活用などの多様な技術が必要になってくる。
平成27年5月20日に下水道法の一部改正する法律が公布され、11月19日に完全施行された。
下水道は、もともと汚水処理と雨水排除を同じ区域で共に行うこととされていた。しかし、人口の減少に伴い汚水を下水道方式から浄化槽で処理する方式に変更する区域が出てきており、雨水排水処理のみを行うことを目的とした雨水公共下水道制度が創設された。
大都市のターミナル駅のように、都市機能が集積した地区で、民間の再開発にあわせて、官民連携による浸水対策を実施することが効率的な区域(浸水被害対策区域)を条例で指定できる制度を創設した。
神奈川県横浜市西口は、再開発に15年の年月がかかっている。ここは地下鉄、地下商店街、電気、ガス、通信網などの地中化により、自治体が新たに貯留施設を設置することは困難であったが、民間の再開発ビル等の地下に貯留施設を建設して、その管理を下水道管理者ができるという官民連携した浸水対策の法改正をした。その場合には、容積率の緩和ができるという制度である。
河川では、警戒水位に達すると警報を出すという仕組みがあったが、下水道の水位に関してはその仕組みがなかったため、今回水防法を改正した。地下街が増えてきている区域の下水道では、下水道管理者が下水道内の水位を監視し、水位情報の通知・周知制度を創設した。
今までは、テレビカメラの監視で内水浸水の警報が出されたが、それでは地下街が浸水してしまうため、水位到達情報伝達時間と地下街の利用者が地上に避難する時間を考慮して、特別警戒水位到達情報が設定された。また、特別警戒水位到達は、緊急速報メールを活用して、地下空間利用者にその情報を周知する。
自治体の下水道担当者の知識向上を目的に、ゲリラ豪雨等による被害の課題を抱えている全県の下水道担当者等を対象に、浸水対策の知識を習得するための学習問題をダイレクトメールで配信する「雨水通信教育システム〜雨道場〜」の取り組みを平成25年度から開始した。これは各県ごとに勉強会を行っていくものである。
また、平成26年度の下水道の日(9月10日)にあわせて、下水道若手職員によるネットワーク「下水道場」を開催し、市町村職員同士で下水道による浸水対策について議論した。その様子はNHKでも放映された。
下水道は津波・高潮・洪水時の排水機能がまだ充分に整ってはいない。東京湾は津波より高潮の高さの方が高く、東京東部低地ではA.P.+1.4〜2.4mにもなる。また、気候変動による海面上昇への対応も検討すべきである。
今回は、ゲリラ豪雨を中心に下水道施設のさまざまな雨水管理について解説したが、次回は東京都の内水氾濫、特にゼロメートル地帯・地下街を守るための備えについて解説をしていく。
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